印刷工場「三堂プリント」の物語③ BCPが“日常を強くする”経営基盤に進化

――印刷工場「三光プリント」の5年後――

「BCP(事業継続計画)」は、もともと“もしものときの備え”として始まった取り組みだった。
しかし、印刷工場「三光プリント」にとって、その計画は5年の歳月を経て、
“日常の経営を強くする仕組み”へと変化を遂げた。


■ 手探りのBCP策定から、5年後の姿へ

三光プリントがBCPに取り組み始めたのは、5年前のことだ。
当時は社長の安田氏をはじめ、社員20名のうち半数近くが50代後半以上。
もし地震や感染症が発生して操業が止まったら――。
「再開できる保証はない」と感じたのがきっかけだった。

中小企業診断士による伴走支援を受けながら、安田社長と社員たちは半年かけて
「業務の優先順位」や「代替手段」「責任者の権限移譲」などを明文化していった。
当初は“防災マニュアル”の延長のように感じられていたが、
進めるうちに、社員同士が業務の流れを共有し、
「自分の仕事が会社のどこにつながっているのか」を理解する機会となっていった。

BCPの作成過程で最も議論が白熱したのが、
「誰がリーダーとして現場を指揮するか」だった。
若手社員が会議に参加する機会が増え、
ベテランから仕事の“コツ”を引き継ぐ仕組みが自然にできていった。


■ 高齢社員の退職を乗り越えた「次世代リーダー育成」

BCP策定から3年後、会社には大きな転機が訪れた。
長年会社を支えてきた技術者が相次いで退職を迎えたのだ。
もし数年前の三光プリントであれば、製版・印刷ラインの調整に支障が出ていたかもしれない。

しかし、このとき会社は混乱せずに乗り越えることができた。
その理由は、BCPの中で整備された**「代替要員表」「技能継承チェックリスト」**にあった。
それぞれの工程で「担当者が不在でも誰がどの作業を引き継げるか」を整理しており、
ベテラン社員が退職する前に、若手社員へOJT形式でスキルを引き継ぐ体制を整えていた。

結果として、20代・30代の社員がリーダー補佐を担うようになり、
現場では「指示待ち」ではなく、自分で判断し行動する文化が生まれた。
5年目の現在、平均年齢は45歳から38歳へと若返り、
「若手が主体的に動く会社」という評価を得るようになった。

安田社長はこう語る。

「BCPで“有事の指揮系統”を整理したことが、
結果的に“日常の指示系統”を明確にしたんです。
経営者が現場を離れても、会社が自走できるようになったのは大きいですね。」


■ 金融機関からの信頼強化と、資金調達の好循環

もうひとつ、想定外の効果があった。
それは、金融機関との関係が格段に良くなったことだ。

BCP策定時、安田社長は取引先の地方銀行にも計画書を共有した。
最初は「災害時に資金繰りが厳しくなったときの相談」として始まった話だったが、
銀行側から「しっかりとリスク管理をしている企業」と評価され、
翌年の設備投資の際に金利優遇付き融資を受けることができた。

当時、同規模の企業が年利1.8%前後だったのに対し、三光プリントは1.2%。
印刷機更新やクラウドサーバ導入のための資金調達がスムーズに進み、
結果的に生産効率が15%向上。
納期短縮やコスト削減につながり、年間売上は3年で1.3倍に伸びた。

BCPは単なるリスク対策ではなく、金融的信用力を高めるツールにもなった。
「リスクを数値で管理できる企業は、金融機関から見れば安心して貸せる先」
――銀行担当者の言葉が、BCPの意義を改めて裏付けている。


■ “有事の備え”から“平時の強化”へ

BCPを策定した当初、安田社長は「地震や台風が来たときにどうするか」を中心に考えていた。
しかし、5年経った今ではその意識はまったく異なる。

「BCPは、非常時に備えるだけじゃない。
毎日の業務をどう効率化し、誰がいなくても回る会社にするか――。
つまり“強い日常”を作るための経営計画なんです。」

三光プリントでは、BCPの定期見直しを年1回行っている。
見直しのたびに、
・新しい工程責任者の追加
・サプライヤーの見直し
・クラウドデータのバックアップ体制
などを更新。

同時に、若手社員が中心となって訓練を企画し、
“もしもの想定”を日常の業務改善とつなげている。

その結果、災害は一度も起きていないが、
・業務標準化による品質ばらつきの減少(不良率▲25%)
・社員の提案制度活性化(年間提案件数×2.3倍)
・新規顧客獲得件数の増加(前年対比+18%)
といった、確かな経営成果を生んでいる。


■ 中小企業診断士の支援を通じて

中小企業診断士によるBCP伴走支援は、
単に計画書を完成させるだけでなく、
“会社のあり方”を見直す機会を提供するものだった。

診断士のアドバイスにより、
「業務マップ」や「代替要員表」が整備され、
社員が自分の仕事の位置づけを理解するようになった。

その積み重ねが、今の三光プリントの原動力だ。
安田社長は振り返る。

「BCPを作ったときは“守り”のためと思っていました。
でも、今は“攻め”の経営のために欠かせないものです。
BCPがあったから、融資も受けられたし、人材も育った。
会社の未来を語るための“共通言語”になりました。」


■ “守り”から“攻め”へ、そして“次の挑戦”へ

三光プリントでは、今後、地域の中小印刷業者と共同で
「地域印刷BCPネットワーク」を立ち上げる構想を進めている。
災害時に機械や材料を融通し合うだけでなく、
平時からの受注シェアリングや人材交流にもつなげたい考えだ。

安田社長は語る。

「BCPを通じて“人”も“お金”も動かしやすくなった。
だからこそ、次は“地域全体で守り合い、育ち合う”仕組みを作りたい。」

かつて「手探り」で始めたBCPは、
いまや三光プリントの経営基盤そのものになった。
それは、災害がなくても会社を成長させる――
日常を強くする”ための経営の知恵である。

次回、2/16(月)に投稿予定です。

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