印刷工場「三堂プリント」の物語① 小さな印刷工場が守ったもの

🌧 小さな工場を襲った“あの夜”から、すべてが始まった。
これは単なる防災の話ではなく、会社を守る覚悟と、人を守る約束の物語です
いつもは二週間に一度ですが、今回の「三堂プリント」の物語は、毎週投稿します。

― 社員15名のBCPストーリー ―

【1】嵐の夜

「社長、水が……! 工場の前の道路、もう膝まで来てます!」

時計は夜の8時を過ぎていた。
その日の埼玉は、過去に例を見ないほどの豪雨に見舞われていた。
印刷工場「三光プリント」の社長・石井隆(いしいたかし)は、事務所の窓を打つ雨音に顔をしかめた。

「まさか、ここまでとはな……」
小さな町工場の敷地内に、溜まり始めた泥水。
外では雷が何度も閃光を放ち、インクの匂いが微かに漂っていた。

「電源、落とすぞ!」
ベテランの中島主任が叫ぶ。
パチン、とブレーカーの音が鳴った瞬間、照明が落ち、非常灯だけが工場内を照らした。
暗闇の中で、印刷機の鉄の塊が不気味な影を落とす。

「紙、全部上にあげろ! 段ボールも!」
社員たちは必死に動いた。

その日、誰もが頭の中で同じことを考えていた。
――もし、あと30分遅れていたら。
機械も、紙も、取引先の大切なデータも、すべて失っていたかもしれない。

午前1時。
ようやく雨脚が弱まり、冠水はなんとか工場の入口手前で止まった。
皆が息をついたその瞬間、石井は誰にも聞こえない声で呟いた。

「……今回は運がよかっただけだ。」


【2】翌朝の静けさ

翌朝、まだ泥の匂いが残る工場で、石井は一人、濡れた床を雑巾で拭いていた。
社員たちは疲れ果て、早めに帰らせた。

ふと机の上のカレンダーを見ると、赤丸で囲まれた日付が目に入った。
「納品日」――その文字が、じわじわと胸を締めつけた。

(今回は間に合った。でも次は……?)

そのとき、ふと脳裏によみがえったのは、取引先の担当者の言葉だった。
「うちはBCP対策、やっと形になってきましたよ。御社も早めに動かれたほうがいいですよ。」

BCPー事業継続計画。
そのときは、「うちは小さい会社だから」と笑いながら聞き流した。
けれど、あの夜を経験して、もはや他人事ではなかった。


【3】小さな一歩

数日後、石井は埼玉商工会議所のセミナー案内に目を留めた。
タイトルは「中小企業のためのBCP入門講座」。

「……タダだし、行ってみるか。」

講師は中小企業診断士の女性で、やわらかい語り口だった。
「BCPは“災害対応マニュアル”ではありません。
 “あなたの会社の未来の地図”なんです。」

その言葉が、石井の胸に残った。

セミナー後、個別相談で彼は思わず言った。
「うちは社員15人の印刷工場です。そんな小さな会社でも、BCPって意味ありますかね?」

講師は微笑んで答えた。
「小さい会社ほど、BCPは“命綱”になりますよ。
 人も設備も限られているからこそ、最初に“何を守るか”を決めておく必要があるんです。」


【4】社員との壁

週明け、石井は全社員を集めて話を切り出した。
「うちもBCPを作ろうと思う。」

工場の奥で機械の回る音が止まり、社員たちが顔を見合わせた。

「BCPって、何するんですか?」
「避難訓練みたいなもんですか?」
「正直、忙しいんで……」

反応は冷ややかだった。
その中で、唯一若手の佐藤だけが興味を示した。
「僕、前の会社で地震のときにサーバー壊れて大変だったんです。やりましょう。」

その言葉が、空気を少し変えた。

石井は覚悟を決めた。
「じゃあ、全員でやる。俺も初めてだ。だけど、命と会社を守るためだ。」


【5】手探りの作業

最初の会議では、ホワイトボードに大きく書かれた。
【何が止まると、うちは終わるか?】

「電気だな。停電したら印刷機は全部止まる。」
「紙の在庫、濡れたら終わり。」
「データもバックアップ取ってないですよね。」

話し合ううちに、今まで見えなかった「弱点」が次々と浮かび上がってきた。

1か月後、代替電源として小型発電機を導入。
主要データはクラウドにバックアップ。
そして、全員の携帯に緊急連絡網アプリを入れた。

地味な作業の連続だったが、少しずつ“安心”が積み重なっていった。


【6】BCPが試された日

翌年の8月。
その日は、湿気が肌にまとわりつくような猛暑だった。
昼過ぎ、突然「バンッ」という音とともに照明が消えた。

「停電か!?」
外を見ると、周囲一帯の信号も消えている。

「非常電源、起動!」
中島主任が発電機のスイッチを押した。
うなりを上げて動き出した発電機が、1台の印刷機だけを動かした。

石井は顧客リストを手に取り、電話をかけた。
「ご安心ください。予定どおり納品できます。」

電話の向こうで、取引先の担当者が驚いた声を上げた。
「本当に? 停電でみんな止まってるって聞いたのに……」

停電は3時間続いたが、納期は守られた。
社員たちが汗を流しながらも黙々と働く姿に、石井の胸が熱くなった。


【7】変わったもの

停電騒動から数週間後。
地元の商工新聞に「三光プリント、BCPで停電を乗り切る」との記事が載った。

それを見た近隣企業から、問い合わせが増えた。
「うちもBCP、作りたいんですが教えてもらえませんか?」

石井は驚いた。
あの“うちは小さいから”と笑っていた自分が、今度は人に教える立場になっていた。

社員たちの意識も変わった。
「うち、ちょっとかっこよくなりましたね」
若手の佐藤が笑った。

その夜、工場のシャッターを下ろしながら石井は思った。
(BCPって、計画書のことじゃない。
 この会社を、信じて働く人を守る“約束”なんだ。)


【8】未来へ

3年が経った。
工場の入り口には、社員が作った手書きのポスターが貼られている。

「私たちは、どんなときも止まらない印刷工場を目指します。」

新入社員の研修では、必ずBCPの話をする。
「災害は怖いけど、私たちには“動ける仕組み”がある。だから安心して働ける。」

BCPを整備したことで、会社の信頼も上がり、取引先からの評価も高まった。
今では「頼れるパートナー」として、同業から紹介を受けるほどになっている。

石井は机の上に置かれた古いノートを見つめた。
あの夜の冠水騒ぎのあと、びしょ濡れの紙に書いた一言。

「もう二度と、“たまたま助かった”では終わらせない。」

それが、三光プリントの原点になった。


【エピローグ】

取引先の担当者が訪ねてきて言った。
「石井さんのところ、ほんとに変わりましたね。
 社員の皆さん、前より明るくて、頼もしいです。」

石井は笑った。
「うちが変わったんじゃないんです。みんなが、“守る理由”を見つけたんです。」

彼の目に映るのは、印刷機の光沢に反射する夕陽。
その光は、15人の小さな工場が積み上げた、確かな“未来の証”だった。

【印刷工場「三堂プリント」の物語② 中小企業診断士と作った”BCP”の効能】は、次週投稿します。

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